「イヌイット」
カナダには世界のイヌイットのおよそ4分の1が住んでいる。現在はカナダ・ヌナブト準州の大陸北岸沿いや、東西約4,000kmの北極諸島に点在する約40の小集落に住んでいる。 「エスキモー」という言葉なら多くの人が一度は聞いたことがあるであろう。そもそもエスキモーとはシベリア北東端のチョコトカ半島の沿岸部からアラスカ・カナダの極北地域を経てグリーンランドまでのツンドラ地域に住んでいる人々のことを言う。ヨーロッパ系カナダ人は極北の民を呼ぶ際に「エスキモー」と呼んでいたが、先住民運動が盛んになってきた1970年頃から「民族蔑視につながるような意味を持つ他称を民族名として使用する事は適切ではない」として、政府関係をはじめマスコミ界等では「イヌイット」が使用される事となり「エスキモー」が「イヌイット」として使われるようになった。
しかし、ロシアやアラスカでは「エスキモー」という言葉が現在でも使用されカナダのように「エスキモー」が民族蔑視につながるとは断言できない部分もあるようだ。
カナダ・イヌイットの正確な起源はまだ不明な部分が多いが、氷河期のまだ陸続きであった頃に、アジアから北米へやってきたという説が一般的だ。彼らは内陸系の狩猟民族であったが、北極地方を東へ移動している間に沿岸の状況に適応し海洋動物を捕獲し始めた。海上での漁猟とカヤック乗りに適応したことが現在のイヌイット独特の文化を築いていったと考えられる。 狩猟は現在もイヌイットの生活の基礎となっている。彼らの社会では、家族が基本的な単位となり、いくつかの家族を集め1つのグループを形成し、協力しながら狩猟活動を行う。北極グマ、ハイイログマ(グリズリーベア)、ジャコウウシ、カリブー、オオカミ、北極クジラ、セイウチといった北の国ならではの、動物たちが彼らイヌイットの獲物となる。 イヌイットは自分達が見つけた環境に生活様式を合わせていったと考えられ、前記の獲物を狩猟しながら、その季節に合わせて陸や海上でハンターとなった。食料の種類は限られていたが栄養的にバランスがとれ寒い冬を乗り越える為には、こうした動物的な蛋白質が必要不可欠であった。また、獲物の皮を加工し衣服やソリの一部として活用したともいえる。毛皮取引が重要性を高めるにつれてイヌイットの外部との接触も更に増え、毛皮は常にイヌイットの生活には不可欠な素材となり、狩の方法も皮を傷つけない罠猟へと変化した。
ヌナブトはカナダにおける最北である。その為、気候は大変厳しく、四季を持つこの地域であっても極端なことを言えば殆どが冬といっても過言ではない。当然冬ともなれば気温は零下となりマイナス40度以下になることも少なくない。 この寒さに加えて風が吹く。毎時15〜20kmは当たり前。強風ともなると毎時50〜60kmになり、当然体感温度は低くなる。夏となれば7月は20度くらい(地域によって若干異なる)に気温が上がり陸地が海水よりも暖かくなる沿岸地域は比較的涼しい季節となる。また、平均気温よりも低い地域は全体が途切れることのない永久凍土で覆われている。かなり浅い土表だけが夏になると融解し冬になるとまた凍るのが原因される。また、この地域独自の現象が日照時間だ。冬のイカルイト地方では日照時間が4時間と短く、逆に夏になるにつれ白夜となる。
イヌイットの生活基盤は昔と比べて大幅に多様化したといえる。世界的に有名なイヌイットの彫刻や版画には大きな需要があり村にとって安定した収入源となっている。 |