北米大陸、太平洋沿岸の初夏の朝。
小雨の中、フィヨルド海岸独特の山々と静かな海が交差する景色の中でシーカヤックを岸から10mほどの距離を保ちながら進めていた。
満ち潮に逆らって漕いでいるので、少々手に力がいる。
3時の方向、静かに、しかし、突然、岸の茂みが不自然に揺れる。
体長60〜70cmのブラックベアの子どもと目が合う。
茂みのゆれは他にもいくつかあって、数秒後には3頭の子グマ達が我々を見つめていた。
そのうち2頭は後ろ足で立ち上がって、バランスを取る為に可愛らしく前の両足を合わせるようにしながら、鼻を高く上げて匂いを嗅ぎながらこちらを観察している。
場所は宿泊先のすぐ傍、アットホームでありながら贅沢な隠れ家的ロッジの目の前にあるビーチを出てからまだ10分と経っていなかった。
唐突さと、驚きと、愛くるしさ、最後に嬉しさが湧き上がって感情が交錯する。
不自然な揺れはまだ続いていた。しかも一番大きな揺れだ。現れたのは母グマだった。
子グマと同じように鼻を高くあげながら、こちらを確かめている。
親子4頭大家族のお食事中であった。
交錯した感情に恐れが加わり落ち着きを取り戻す。
同時に首から提げていたカメラを構え、シャッターを切る。
親子は警戒レベルを下げて、再び食事を始める。器用に動く唇がやわらかそうに見える草をとらえると、力任せに引っ張る。束ねられた草が途中で千切れて口の中に入っていく。
顔の周りに小さな虫たちがたかっているのが見える。近い。
オールをカヤックの上に載せて、カメラを構えると惰性でカヤックが静かにクマの方向に進む。
カヤックの先端が岸に生える草に触れるほどの距離。
さすがに母グマは許してくれない。不機嫌そうに首を振りながら子グマと我々人間の間に入って、咳払いのような意味だろうか、妙なうなり声をあげた。
もう距離は5m程度しかない。
目線はそらさず、静かにカヤックを後進させる。母グマは警戒心を解いて子グマの元へ戻った。
シーカヤックを沖へ向けると、目の前には鏡のような穏やかな海が広がっていた。
海の向こうには氷河を背負った山々が凛然と聳えていた。
雨はもう止んでいた。
雲の隙間から射している太陽の光で景色に色が加わる。
日差しのおかげで、少しだけ沖にいる小さなヨットがその景色を絵のように演出している。
この瞬間を独占した満足感でため息が出る……
日本を発って19時間後の出来事であった。
決して人類だけの特権ではありませんが、私たち人間は五感を有しています。
普段の生活の中で、私たちは常にこの五感に刺激を受け続けています。
しかしそれらは時として日常生活の中に埋没してしまいがちです。
「旅をすること」はそれらの五感に新しい刺激を与えてくれます。
それまでに見たことのない景色
味わったことのない食事
聞いたことのない音色
このサイトに訪れている皆さんの多くは、過去の旅において、既に多くの刺激を五感に受け、数多くの感動を経験していると思います。
それらの感動は「日常」から離れた「非日常」と言えます。
また、普段の生活からなる「常識」から離れた「非常識」とも言えます。
私たちの生涯感動は、距離という物理的なものだけでなく、海外という地理的なものだけでもない深くて遠い「日常」と「常識」を有することを大切にしています。
今までにない大いなる「非日常」、「非常識」が訪れる人の第六感とも言うべき「感性」を試すものであると信じています。
旅を終え、普段の生活に戻った時に、ふっとこみ上げてくる懐かしく、切ないような想いはその場所に居たからこそ感じることのできた、その時、その瞬間の感動です。
生涯忘れることのできない感動を
「生涯感動の旅」では、皆さまへ約束したいことがあります。
※但し、同じ場所でも全ての季節に訪問できていない場所もございます。
※一部、現地在住のその場所に精通した方々に協力いただいて皆さまに紹介をしています。
私たちは北米先住民共通の理念と言える自然に対する「謙虚さ」から多くのことを学びました。
「生涯感動の旅」を自信を持って皆さまに紹介し、既に多くの方に体験していただいていますが、まだまだ至らない点が多く課題があると感じています。
皆さまのお力を借りて成長していくことが私たちの理想です。
「生涯感動の旅」で最も大切にしている要素の一つが人です。
それぞれの場所、歴史、自然、動物などに対する知識はもちろん、情熱やプライドを持ち、それらを皆さまに紹介し、感動をしていただくことに喜びを感じることのできる人のネットワークによって「生涯感動の旅」は成り立っています。